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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

五

五

美しい彫刻のある、銀の台付の杯を、二つ並べて、浪路は、黄金のフラスコ型の壜から、香りの高い酒を充して、

「さあ、お取りなされまし」

と、白い、細い指先で、自分でその杯を取り上げた。

雪之丞も飲んだ。

何処から渡って来た銘酒か、何ともいい難い芳醇さと甘さとを持った液体が、舌の先から咽喉の奥に――それから胸の中に、じっとりと溶け流れると、すぐに目先がチラチラする程、軽い酔が感じられて来るのであった。

「太夫、そなたは、わたしの病気を、どんな煩いと、思うてか?」

浪路が、杯を手にしたまま、じっと小首をかしげるようにして訊く。

「どんな煩いというて、くわしゅうはどなたもおっしゃっては下さりませぬので――」

「わたしの病いが、どんな煩いか、どなたにわかっていましょうや」

と、浪路は、意味ありげに、

「それは、わたしだけが知った煩い――なぜ、御殿にもいられぬほどの病気になったか、そのわけは、どんなお方も、知ろうはずがありませぬ――でも、太夫、そなただけは、いくらか気付いてくれそうなものに――」

怨じ顔の目元が、蜜酒の酔いに、薄すりと染まって、言うばかりなく艶だ。

雪之丞は頭を揮って見せて、