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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
八
いよいよ以て聞き捨てならぬ。それへ直れ」
と、猛り喚く。
雪之丞は、困惑した。江戸にはこうした無頼武士がはびこって、相手が弱いと見ると、何かにつけて言いがかりをつけ、金銭をゆするはおろか時によると、剣を抜いて、挑みかかることもある故、気をつけるがいいと、いわれていたが、早くも、かような羽目に落ちて、どうさばきをつけたらよいか、途方に暮れた。
それに、この浪人の唇から漏れた、河原者という一言がぐっと胸にこたえたので、平謝りに謝るのもいまいましかったが、虫を押えて、一歩進み出た。
「これはこれは、お士さま。供の者が何か御無礼いたした様子、お腹も立ちましょうが、御堪忍あそばして、許してやって下さいませ」
と、丁寧に挨拶する雪之丞の、たわやかな姿を、素浪人は、かっと見開いた、毒々しい目でぐっと睨め下ろした。
八
おどおどと、恐怖にみたされて、腰も抜けそうに見える供の男を、いつか後ろに囲うようにした雪之丞は、浪人者の毒々しい視線を、静かな、美しい瞳で受けながら、重ねて詫びた。
「何分、わたくしは、御当地に始めての旅の者、殊更、取り急ぎます日暮れ時、何事もお心寛うお許し下されますよう――」