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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二
いましょう――そのうちに、この月の芝居もすんだなら、世間を忍んで、必ず、おたずね下さるに相違ない――わたしは、待ちます! じっとじっと、しずかにして――
と、そんな方に、自ら慰めて見ずにはいられない彼女でもあった。
二
こうも呪い、ああも、自ら撫め、日を、夜を、垂れ籠めて、たった一人小むすめを相手に、せめてもの慰みは、新版芝居錦絵、中村座当り狂言の雪之丞の姿絵、三枚つづきの「滝夜叉」に、その人をしのぶ事だけの浪路だった。
あの晩、吹きつづけた凩が、しいんと、吹きやんで、天地が、寒夜の静もりに沈んでゆくような晩だったが、相変らず、錦絵をならべて、小むすめに、絵ときをしてやったあとで、菓子箪笥から、紅い干菓子を、紙に分けてやって、
「千世、おあがり」
と、すすめてやって、どこか、若衆がおの愛らしい横がおをみつめて、何を思ったか、ぼうと、いくらか、頬をうすく染めた浪路――
「ねえ、千世、たのみがあるのだけれど――」
八丈柄の着物に、紅い帯をした小むすめは、女あるじをみつめた。
「何でござります?」
「いいえね、格別、六かしいことではないのだよ――わたしと二人、夫婦ごっこをしてあそんでおくれな――いいでしょう?」