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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一九
愛の、悶えの、執着の熱線だった。
そして、それは、浪路の魂と肉との哀訴だった。
浪路は、片手を脇息にかけて、紅唇にほほえみをうかべようとするのだったが、その微笑は口ばたに硬ばりついて、かえって、神経的な痙攣をあらわすにすぎなかった。
三郎兵衛は、二人の目が、ピタリと合ったまま、うごかぬのを見ると、チラリと冷たい笑みを見せて、
「では、わしは彼方のお座敷でまだお相手をせねばなりませぬゆえ、ゆかせて頂きます。雪之丞どの、御息女さまは、ようくおたのみいたしましたぞ」
そう、いい捨てると、そのまま姿を消してしまった。
浪路の、白い咽喉から、いくらかかすれたような声が、はじめて洩れる。
「さ、これに、進みや」
雪之丞は、しおらしげに膝をすすめた。
「いそがしいところを、今宵は、とんだ目に逢わせましたな」
浪路は、相手に遠慮を忘れさせようとするだけの、心の余裕を持つことが出来はじめた。
彼女は、かねがね、大奥の、口さがない女たちが、宿下りの折々に、贔屓の役者と、ひそかに出逢いをして、日ごろの胸のむすぼれを晴らす、その時のたのしさ、うれしさを聴かされてもいた。
――何も、こわがることも、うじうじすることもない、だれもがすることだ。