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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
三
――ほんとによ、小股の切れ上ったあいつに、注がせて飲んだら、第一、倍もききがいい酒になるだろうによ。
そして、妙に真顔に考え込んだ。
三
島抜け法印の、どんぐり目は、いよいよギラギラと、耀めいて来た。これまで押し伏せに押し伏せていた欲望が、一度、ムクムクと頭をもたげた以上、それを、もうどうすることも出来ない。
――あれだけの女が、同じ屋根の下にいるのを、ほんとうに勿体至極もないはなしだ。この部屋へ引き出して来たら悪いだろうが、あの、窓ひとつ大きくは切ってねえ窖なら、ちょいと、話をして酌をさせたところで、逃げられる気づけえは、断じてねえ――それによ、あの女だって、軽業お初と、あっぱれ異名も持った奴、ひょんな破目で、敵味方になったといってあんまり辛く当るのも、泥棒仲間の、仁義道徳にかけるというもんだ――あれだって、茶碗ざけの一杯も、たまにはやりたいだろう。そうだ、ひとつ、退屈しのぎに、からかいに行ってやろうか――
島抜け法印、残りの白丁を振って見て、
――こんなことなら、独りでがぶ飲みをするんじゃなかったが、それでもまだ、あいつが、ほろりとするぐれえは残っていらあ。