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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二三
「そうまで仰言るなら、暁け方まで、御造作にあずかりやしょうか――」
と、闇太郎、振り袖小姓の酌を受けて、今度こそ、腰を落ちつけて飲み出すのだった。
二三
三斎は、一度、腰を上げかけた闇太郎が、また坐り直して飲み出したので、上機嫌だった。
「実は、闇太郎、わしも、役儀は退いているといっても、矢張り、江戸に住んで、公儀の御恩を受けている身体だ。貴様のような人間が、屋敷にはいって来たのを、そのままにして置くということも、ちと、出来難いのじゃ。だが、平馬もいうたであろうが、わしには、妙な望みがあって、この世の中で、一芸一能に秀れた者に、交わりを求めたいと、かねがね願っているのだ。絵の道であれ、刀鍛冶であれ、牙彫師から、腰元彫りの名人――まあ、江戸一といわれる人間で、わしの許に出入りせぬ者はない。仮令泥棒にもせよ、貴様程の奴が、姿を現してくれたのだから、一概に野暮な業もせぬつもりだ。こう申したとて、貴様を威そうとする気持ではない。そこを間違えては困るが、こちらがそういう存念なのだから、貴様の方でもこれからは、わしにだけは、害意を捨てて貰いたいな」
「と、仰言っても、御隠居さん――」