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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
四
お初は、尻目にかけて、冷たく笑った。
「何が毒酒なもんで――いい酒さ――いいも良い――池田の剣菱、ちょいと口にへえる奴じゃあねえ。これで、おいらも、何の道楽もねえ堅造だが、酒だけは吟味しねえじゃあいられねえ方だ」
「ほ、ほ、ほ、堅造が、あきれたよ!」
お初、今度は、声を出して笑ったが、
「そこまでいうなら、遠慮なく頂戴しようかねえ――」
と、茶碗を受けて、なみなみと注がせて、裸火の光りに透かすようにして見たが、
「ほんに、いい臭いだこと――いただきますよ」
きゅう、きゅう、きゅう――、
とたった三口で干して、突き出して、
「どうぞ、もう一杯」
「へえ、いけるんだねえ、姐御も――」
と、法印は、あざやかな呑みッぷりに敬服したように、お初つぁんが、姐御という尊称に変って、二つ目を差してやる。
お初は、新しい茶碗を一口飲んで、ふうと、息を吐いて、
「おいしいこと――あたしだって、実は、お坊さんだって、もう少し早く、何とか気を利かして、寝酒の一杯も、差し入れてくれそうなものだと思っていたのだよ――柄こそ不意気だが、どこかこう乙なところのあるお人なんだから――」
「へ、へ、へ、油をかけちゃあ困るぜ、姐御――だが、おいらにも、相当に苦労があるんで、今のところは、人さまのおっしゃるままになっていなけりゃあならねえのサ」