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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一三

一日、引っ込んで、仕事場にばかりいる、変人の象牙彫りと、どこまでも、思い込ませて置きたいのだし、島抜けの法印は、当分の間、人前に、顔を曝せたものではない。

雪之丞が、浪路の最期の床に侍していてやった、なぞということが知れたら、それこそ大問題なのだ。

「ほとけは、気に染まねえか知れぬが、こいつは、一ばん、この俺の手で、三斎のところへ、連れて行ってやる外はあるまい」

闇太郎は、しばしして、モゾリと言った。

雪之丞は、答えなかったが、それよりほか、仕方なさそうに思われる。

闇太郎は、ふと、屹ッとした目で、女がたを見た――悲哀に閉ざされた横がおを、強く見た。

「太夫、なるたけ長く、枕元にいてやった方が、いいにはいいだろうが、やがて、夜が明けると、人目に立つぜ」

雪之丞は、ハッとしたようだった。

あまりに、浪路の散り際のはかなさに、物ごころがついてから、強く激しく抱き締めて来た、たもちつづけて来た、復讐の執着さえこの刹那、淡びはてようとしていたのだった。

闇太郎、それを見て、ぐさりと匕首を突きつけたものに相違ない。

「はい」

と、彼は、涙を払って、かたちをあらためて、闇太郎を見返した。