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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

五

キーンと感じた勘を、闇太郎は疑わぬ。駆けろ! 駆けろ! 大丈夫、間に合うぞ!

五

女犯廃寺の泰仁寺――

その荒れ森や、黒い甍は、やがて闇太郎の鋭い目の前に、どんよりして来た、初冬の夜空の下に見えた。

闇太郎は、立ち止って、じっと耳をすますようにして、その耳を地に伏せるようにする――こう、こう、こう――と、淋しい夜風の漂う底に、やがて、何を聴き出したか、ニーッと、白い前歯が現れる。

――ふうむ、どうだ、自慢じゃあねえが、江戸御府内の隅から隅まで、闇の中で見とおすと、人に言われるこのおいらだ――目ばかりじゃあねえ、耳もやっぱり、順風耳だぞ――この夜ふけに、あの阿魔でもなくッて、荒れ寺の中から、金切ごえを聴かせる奴があるか――な、あの、かすかなかすかな物の気配――ありゃあ夜禽の声でもねえ、物ずきが、胡弓を弾いている音いろでもねえ、女のこえだぜ――ふ、ふ、やっぱしあのおしゃべりおんなが、何かしゃべっていやあがるんだ。

気軽になって、もう、はっきりと、目的成就の一歩手前まで来たように、声さえ出して笑おうとしたのだったが、その瞬間、

「あッ!」

と、仰天したように、大きく叫んで、ほとんど、地を蹴って飛び上った。