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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二
「お銚子のお代りだよ」
と、いったが、それが来ると、
「ねえ、婆や、おまえも立派な江戸ッ子だが、今度はちっとばかし口惜しいわけだね?」
「何がで、ございます。御新造さん」
「何がって――中村座の大坂役者に、すっかり持っていかれてしまったじゃあないかね? 折角の顔見世月をさ、江戸の役者が、一たい、どうしているのかねえ?」
「それがやっぱし、珍しもの好きの江戸ッ子だからでございましょうねえ――聴けば、雪之丞とかいうのが、あんまり大評判、上々吉の舞台なので、来月も、つづけて演たせるとか言っているとか申しますが――」
「もちつき芝居まで引き止めるのかえ?」
「はい、忠臣蔵で、力弥とおかるの二役で、大向うをうならせたら――と、いう話があるそうで――お湯屋なんぞでは大した噂でございますよ」
この婆や、こんな話になると、じきに乗り出して来る方なのだ。お初はしきりに考えこみはじめるのだった。
二
軽業のお初、その晩は、婆やと、中村座の噂ばなしなぞで更かして寝についたが、翌朝、目がさめる早々、何となく後味が残っていて、どうもこのままでは済まされぬ気がしてならぬ。
――あのばけ物は、おいらが、江戸で名代の女白浪だと、まさか気がついてはいなかったろうが、贅六風情に、邪魔立てをされて、このまま引ッ込んでいたんじゃあ、辛抱がならぬ。