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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一一
「では、脇田先生よりたまわりましたまもり刀、今宵一夜、おあずかり下さりませ」
「たしかにあずかりました。行って来なさい」
師弟は別れた。
楽屋口から、男衆を供に、役者の出入りに、好奇な目をかがやかして立ちならんでいる女たちの間を抜けて、茶屋の前から駕籠に乗るのは遠慮して、しばし、夜風が幟をはためかしているあたりをあるく。
そして、雪之丞、やがて、駕籠に揺られて、大川端をさしていそぐのだった。
一一
料亭の、白く、明るい障子は、黒く冷たい大川の夜かぜを防いでいた。大広間には、朱塗りの燭台が立て並べられて、百目蝋燭の光が昼をあざむくようだ。
床前に、三斎父娘が控えて、左右には浜川、横山、それに三郎兵衛、芸者、末社も、もうおいおい集まりはじめていた。
幇間遊孝が、額を叩くようにして、
「それは、とのさま方、結構なことでございますな。実は、この土地でも、かりにも猿若町の三座の随一、中村座ともあろうものが、上方役者を芯にして、顔見世月の蓋を開けるなんざああんまりなやり方――見下げ果てた仕打ちだ――今度だけは見物も、見合せた方がなんぞという人もありましたが、相手は、遠い旅をかけて来た芸人、まして、あの人達のおかげで、くさりかけた中村座が立ち直れば、これに越したことはないという論も出まして、まあ、幟、そのほか、飾りものもいたし