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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

七

雪之丞は、かぎりない恭敬さを以って挨拶するのだった。

七

五日ばかりが過ぎて、江戸は、いよいよ、真冬らしかった。

芝居小屋の前に立ちならぶ、幟の、青、紅、藍の、派手派手しい色も、いくらかくすんで来て、中村座の顔見世狂言も、千秋楽の日が、そう遠くないことを思わせる。

その晩、雪之丞は、すばらしい贈りものを受けた。さる贔屓よりという名義で、彼自身へは、越後屋見立ての、名にちなんだ雪に南天の――その南天には、正真の珊瑚を用いたかと思うばかり、染いろも美しい衣裳一かさね。外に、金襴の帯――師匠菊之丞へは、黄金彫りの金具、黄金ぎせるの、南蛮更紗の莨入――ほかに、幕の内外、座中一たいに、一人残らず目録の祝儀という、豪勢な行き渡りだった。

雪之丞にも、この無名の贈り主に、ちょいと、心当りがなかった。

――大方、どこぞの、大名隠居か、お金持の仕わざであろうが、さすが、江戸の衆は、思い切ったいたずらをなさる。

なぞと、思っていると、楽屋に一通の文が届いて、ひらいて見れば、珍しく、広海屋主人からの招きのたよりだ。

――おお、広海屋! あの人は、いつぞやの、わしの言葉を、どう聴いたであろう! 上方持米の、江戸廻送を、ほんとうに行ったであろうか?