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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一四
その一語は、広海屋よりも、まず雪之丞の胸を激しく突き動かしたに相違なかった。
一四
「広海屋さん、おぬしは長崎以来のことを忘れたかな?」
と、毒と呪いとをふくませて、長崎屋が言いかけたとき、雪之丞こそ、ハッとしたが、案外広海屋は平気だった。
「ナニ、長崎以来のこと? それはもう、そなたもくりかえし申されたとおり、古い馴染じゃ。さまざまのことがあろうなあ――」
「わしは、そのようなことをいうているのではない――」
と、長崎屋は血走った目で、
「そもそもおぬしが、今にも傾きかけた広海屋の店を、急に何倍にももり返すには、わしの力が加わってはおらなかったろうか? そなたは忘れてしまったかなれど、わしにはまだ昨日のようじゃ――あの人の好い松浦屋さんを、いい加減な嘘八百でたらし込んで――」
と、いいかけて、さすが絶句して、荒々しく喘いだ。
雪之丞は、顔いろが変るのを、感づかせまいとしてうつむいた。
――ああ、みんな、父御のお引き合せ、御亡魂の御念力じゃ――このわしの前で、二人が二人べらべらと、昔の悪事をしゃべり出そうとは――
彼は、ガクガクと、身ぶるいがして来るのを、一生懸命に押えながら、耳をすます。