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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一六

俺にゃあ、あんな奴が一番胸くそがわるく思われるんだ」

と、いって闇太郎は、ジロリと対手を見たが、急に笑って、

「イヤ、こりゃ、とんだいらねえ世話だ。冷酒で一杯景気をつけて、もう夜も更けた、お前の宿の方へ送って上げるとしようか」

彼は、そういうと、立上って、台所から大振りな白鳥徳利をぶら提げて来た。

一六

闇太郎は、白鳥徳利の酒を、燗もせずに、長火鉢の猫板の上に、二つ並べた湯呑みに、ドクドクと注ぎ分けるのだった。

「うちの酒は、三斎隠居の邸の奴より、うまくはねえかも知れねえが、又、別な味があるかも知れねえ、夜寒むしのぎに、ひっかけて行って下せえ」

雪之丞は、白く、かぼそい手で、なみなみと満たされた湯呑を取り上げた。そして、美しい唇で、うまそうに、金色の冷酒をすすった。

ごくごくと、咽喉を鳴らしながら、一息に湯呑をあけた。闇太郎は、そのさまを、さも満足そうに眺めて、

「並木の通りで、はじめて逢ってから、一度は、ぜひ胸を割って話してみたいと思っていたお前と、やっとのことで、今夜逢えた、これで、俺の、この世の望みが、まあ、果せたというものだ」

雪之丞は、対手のそうした言葉を聞くと、この人の前に、自分の秘密をかくし通しているのが、何となくすまぬように思われてならぬ、せめて、輪郭だけでも話してしまおうか。