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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
六
やがて、かごかきの足どりが、少しゆるんで、ゆるやかな傾斜にかかったようだ。
どこかで、微かに人ごえがしている。
――いよいよ、来たな!
と、雪之丞は半眼にしていた目をパチリと開けた。
人ごえが、やんで、しいんとしたが間もなく、かごわきで、
「止まれ、下ろせ」
と、錆た声が――
その命令で、乗物が、とんと下りる。
「珍客、召し連れ申したが、いかがいたしましょうか?」
と、同じこえが、云った。
「御苦労、御苦労」
案にたがわず、門倉平馬の声音だ。
それが、いくらか、高みから聴えるところを見ると、大きな家の、縁端での挨拶らしかった。
「そこに、珍客のための、席も設けてある。それに、招じるがよいであろう」
「しからば――」
と、錆ごえが答えて、
「おのおの、御用意――」
と、言ったと思うと、サッと、急に、かごの垂れが上げられる。
「河原者、雪之丞、出い!」
錆声が、野太く叫んだ。
雪之丞は、すさまじい刀尖が、左右から突きつけられているのを見た。そして、次ぎに、そこが古寺の荒れ庭で、鈍い灯火に、照らされたあたりに、荒ごもが一枚布かれているのを見た。
が、まだ、縁の上に、いかなる人々が並んでいるのか、見ることが出来ない。