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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一〇

雪之丞、刀葉林に坐して、まるで平馬と差し向かいで、世間ばなしでもしている台詞だ。

一〇

「何を詫びたらよいか? ――と、訊くのか?」

と、平馬は、馬鹿にした調子で、

「一たいに、貴さまが、江戸で舞台を踏むのなぞ、見るのも厭じゃ――まずこれまで、お目をけがしましてと、言って、役者をやめて、拙者の道場の下男にでもなれ――それから、従って、一松斎へ、貴さまも、縁切り状をつけねばならぬ――」

平馬は、自分の烏滸のこころに引きくらべて、雪之丞が、現在、平気をよそおってはいながらも、内心では生きた気持もないものと信じ、さんざんになぶってから、残忍なしおきに逢わせてやろうと企らんでいるのだ。

雪之丞は、茶ばなしでもしているような、心易げな語韻で、

「それは困りましたね」

と、小首をかしげるようにしたが、

「わたしが役者になったのは、身すぎ世すぎのためで、つまりは、どなたかさまの下男になって、水を汲んだり、庭を掃いたりするのが、厭だったためでございます。それはもう、堅気衆から御覧になったら、草履をつかもうと、天びんをかつごうと、河原者と一くちに、いわれる渡世をするよりも、いくらいいかわからないと思召すでしょうが、人は顔かたちの違うように、心持もちがっております。