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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一四

のは、丹塗りに、高蒔絵で波模様を現した、立派やかな、唐櫃だった。

丁度、人、一人、屈んではいれようかという、ずッしりした品物――

法印が、目を丸くして、

「すばらしい物だなあ――一てえ、何にするんで? 兄貴」

「まあ、黙っていろッてえことよ――とにかく、この櫃を浪路さんの部屋へはこんでくれ」

そして、死床の側に据えると、蓋を刎ねて、

「さあ、この中へ、ほとけを入れるんだ、手を貸せ」

「あ、そうか、棺桶がわりか――」

法印、命じられるままに、やっと、死後硬直が、解けかかったばかりの、浪路のからだを、重たそうに抱き上げて、そッと、櫃の中に坐らせる。

「おッ! 丁度いい、すっぽりと、あつれえ向きだ――」

と、闇太郎が、言って、

「浪路さん窮屈だろうが、ちょいとの間、辛抱してくんなせえよ。じき、楽になれるのだから――」

蓋をして、錠を下してしまうと、別に、鼠いろの頭巾に同じ布子、仕立て下ろしたのを取り出して、

「法印、このサッパリしたのに着けえて、櫃をしょッて、おれと一緒に来てくんな」

「一たい、この死骸を、どこへかつぎ込もうというのだね?」

「いわずと知れた、親のうちへよ――公方さまのお伽ぎをしたという人を、こんなあばら家から、とむれえも出せねえじゃあねえか――」