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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一三

彼女は、だんだん、灯光に遠い、横手の方へ、塀についてまわって行った。

一三

軽業のお初は、三斎屋敷裏塀まで来ると、ちょいと前後を、闇を透かして見まわしたが、まるで操りの糸に引かれた人形のようにふうわりと塀上に飛び上ったが、その上で、小手をかざして、ちょいと忠信のような恰好をした。

――へん、どんなもんだね? こんなけちな屋敷!

さっき、あのずんぐりが、土部一家の権柄に圧されたようなことをいったのが、今も癪にさわっているのであろう。

さて、それから、彼女は、ひらりと、地下へ下りた。

別に、小褄をからげるでもなく、そのまま奥庭のくらがりの、植込みの蔭につとより添って、母家の方をじっとみつめる。

お初は別に、闇太郎のように、この館の研究がつんでいるわけはない。ただ、何かしら、人も知ったるこの屋敷から、目の玉をでんぐりがえさせるような一品を盗み出し、仲間のものに、ひけらかしてやれば、それでいいのだ――

――まあだ起きてやあがる――うち中が起きてやあがる。いつまでぺちゃくちゃやっているんだね。人の眠る頃にゃあ、やっぱし横になる方が、お身のためなんだよ。

例の黒犬は、今夜は、この犬の方が、家人たちのかわりに、まどろんでしまっていると見えて、クンクンと、鼻を鳴らして寄っては来なかった。