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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二

二

雪之丞は、あたりを見廻わすような闇太郎の目つきに答えて、

「今夜は珍しく、お師匠さんも、鍋島さまのお留守居のお招きで、お出かけ――隣は空間でござります」

闇太郎は、うなずいて、一膝すすめて、

「実はな、あれから、直ぐに、お初のところへ押して行き、一通り理解しようとしたが、知っての気性、ああいえばこう――じまがったことのみいうので、仕方がねえから、一先ず、陣を退き、今夜あらためて策を立てて、あいつを誰も知らねえところに、押し込めてしまったゆえ、当分はまず安心しなせえ」

「まあ、では、どこぞ遠くへでも――」

いくらか、ホッとしたように、しかし眉をひそめるように、雪之丞は目をみはった。

「いんや、つい、近間さ――江戸というところは不思議なところで、お寺の縁の下に窖が出来ていてことによると、一生日の目の見られねえようなことにもなるんだからね――」

「まあ? 怖ろしいことでござんすなあ」

「向うが油断すれば、こっちの餌じき、こっちが脱かれば、向うの食いものになるのが、御府内さ――活馬の目を抜くとはうまく言っているな――だから、みじん、隙は見せられねえ。お初の奴が、片意地を張るにまかせて置きゃあ、あべこべにおめえが、どんなことになるかわかったものじゃあねえから、思い切って荒っぽく出てやったのよ。