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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

三

と、熱くささやいて、そして、自分の言葉に、酔い溺れるかのように、もたれかかったが、千世は身をすくめたまま、答えられぬ。

「駄目ではないの、千世!」

と、浪路は夢をさまされたように、おこりっぽくいったが、また、機嫌をとるように、

「さ、何とか、返事をして――」

「あいあい」

「あれ、あきれた千世――わたしが恨んでいるのに、あいあいでは――」

「でも、あいあいと、いえとおっしゃいましたから――」

三

「さあ、言ってくれるのですよ――千世、ね、こう言ってくれるのですよ――いいえ、決して、あのときのことを、忘れはしませぬ――と、そう言っておくれなさいな。ね、千世」

千世は、女あるじの、柔かな腕の中に抱きしめられて、ますます紅くなりながら、それでも、

「はい、では、申します――いいえ、決して、あのときのことを、忘れはいたしませぬ」

「それなのに、なぜ、いつまでも、お顔を見せてはくれなかったの? わたしは、うらみつづけにうらんでいました」

又しても、千世が、口ごもってしまったとき、外で、

「御免下さりませ」

千世がホッとしたように女主の、脇をすり抜けて、入口の方へゆく。小家なので、音ずれて来た人のこえは、よく判ったが、それは、乳母の伜の、甚太郎――正直、まっとう、主すじのためにはいのちまでも、いつでも投げ出そうとしているような気立て