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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
三
話しごえは、男二人だ。やや皺枯れた年輩ものの声と、もう一つは、たしかに聴き覚えのある、あの雪之丞の和らかく美しい声が、ひそひそと囁き合っているのだった。
三
水いろちり緬のお高祖頭巾をかぶったままの、軽業お初が、廊下の薄暗さを幸にして、そッと、障子越しに片膝をつくように、耳をすましているとも知らず、夜更けの宿の灯の下に、ひッそりと、昼間は語れぬ秘事を囁き合う、雪之丞とその師匠だ。
「いかにもそなたが、そこまで腰をおとしてしずかに事を運ぼう気になったのは何よりだ」
と、これは、菊之丞の、やや錆た声で、
「何分にも、かたきの数は多いのだし、すべてがこの世にはばかる程の、それぞれの向きの大物たち、並べて首を取れるわけがない――ゆるゆると、人目に立たず、一人一人亡ぼしてやるのが一ばんじゃ、しかし、わずかの間に、それだけ事を運ばせたは、さすが、そなただの」
雪之丞、師匠の前で、だんだんに着手し進行せしめている、復讐方略の説明をしているものらしい。
が、お初に取っては、今夜、この役者の宿で、こんな密話を聴こうとは全然予期していないことだ、思いもかけぬ物語だ。
――何だねえ? かたきの、首のと!