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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二三

――おん仕立物――

と、小さい札を出した小家を差していそぐ。

仕立屋の格子先に立つと、雨戸がしまってもうすっかり寝しずまっているようだが、コツ、コツと、軽く叩いて、

「お杉ちゃん、もう、寝んね?」

ゴトリと、何か物音がして、

「どなた! お銭ちゃん?」

と、中年増の声――いくらか寝むたげである。

「いいえ、あたし、黒門町――」

「まあ、姐さん!」

いそいで、入口に近よる気配がする。

二三

お杉という、三十足らずのぽってり者、寝巻の裾から、紅いものをこぼして、あわただしげに入口の戸を開けて、のぞいて、

「まあ、思いがけない! さあ、早く、おはいんなすって――」

「すまなかったね――遅いのに起して――」

はいって、土間に脱ぎ捨てる駒下駄――それを、お杉は下駄箱にしまう。

「はばかりさまだね、下駄をいじらせて――」

「いいえ、ね――だって、姐さん危ないんじゃないの?」

お杉は、行灯の灯を掻き立てながらいう。

「どうしてさ?」

「でも、吉さんはじめ、お身内の人たちが、姐さんの行方が、出たッきりわからなくなったが、どうしたのだろう? 何でも、闇の親分に誘われて、大きな仕事を目論んだらしいというので、そッちで訊いて見ると、解らぬという――それで、大騒ぎをしているようだから、てッきり、引ッかかって、抜けておいでなのだろうと思ッてさ」