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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二二

お初さん、お互に江戸ッ子――かよわいからだ、大敵を向うにまわした奴にゃあ、人情をかけてやりてえものだの――」

闇太郎が、これだけ言って、相手の顔いろをうかがうと、お初は、眉を釣るようにして、紅い唇をぐっとひきゆがめ、さげすむように、じろりと一瞥して、

「親分、おまはん、たのまれておいでなすったね――」

二二

お初は、嘲りのいろさえ見せて、闇太郎を尻目にかけるようにしながら、言葉を次ぐ。

「親分、お前さんが、他人の色恋の、間に立ちまじって、口をお利きになろうなぞとは、わちきは思いもかけませんでしたよ」

「そうだ、全くだ」

と、闇太郎は、ざっくばらんに、

「おれだって、今日が日まで、こんな役割をつとめようたあ、思ってもいなかった。ところが、世の中のめぐり合せという奴は不思議なもので、思いがけなく、とんだ不意気で、不粋なことを、おまはんに聴かせなけりゃあならねえ羽目になった。ねえ、姐御、くどくは言わねえが、あの雪――上方もののからだから、さっぱりと手を退いておくんなせえ。何もかも知らぬ昔と思い切っておくんなせえ。このおれが、こう手を突いて頼むから――」

と、膝に手を、ピョコリ頭を下げて見せる。