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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二四
「まず、これで、ねずみの外には人の邪魔立てするものもない」
と、つぶやいて、のれん口の、赤茶けた畳の上に、ぐったりと、手足を伸べ、裾を乱して、気絶している浪路に近づくと、行灯を引き寄せて、じっとのぞき込んで、口に出して、
「ほうほう、これは、うつくしい――あでやかだ、落ちのこった髪飾り、途方もない上ものだ。こんな女の子がよる夜中、江戸の裏町をあるいていれば、今の雲助ならずとも、そのまま黙って通そうとは思われぬ。不用心不用心――とかく、つつしむべきは、色の道――南無阿弥陀仏――」
と、殊勝げに言って見て、
「それにしても、早う呼び生け、また、あぶれ者が、取って返さぬうち、無事に家まで送り届けてやらねばならぬ」
近づいて、抱きおこそうとするが、その手つきは、まるで、砕けやすい陶物か、散りかけた花をでも取り上げようとするかのように、あぶなげだ。
――これ、うっかり触って、細い骨でも折るまいぞ。
と、自分にいいきかせているように、何度かためらったが、やっとのことで、抱き上げて、膝の上に、ぐたりともたれかかる、仰向きの美女の、鳩尾に、荒くれた太い指を、ソッと当てたようだった。