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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二〇

鑑識眼では、上乗無類、値打の程も底知れぬものだ。

娘のなきがらを一目見て、前後を失った三斎は、世にもあわれな一老父にすぎなかったが、この部屋の豪奢さを眺めると、闇太郎、たちまち又、暴富に対する憎悪を感ぜざるを得ぬ。

――ふん、じじいめ! 若し、雪之丞の仕けえしということがなけりゃあ、この屋敷から、大よそ目ぼしいものは、このおれさまが、みんな抜き取らずには置かねえのだ。あの仕事の邪魔になってはと、遠慮しているが、癪だなあ、この贅沢は――

唇を食いそらすようにしていると、いかなる美女も羞じらう容色の振袖小姓が、酒肴を運んで来て酌を取る。

「どれ、じゃあ、折角の御馳走だ。一ぺえいただこうか?」

と、やけ気味で、闇太郎は杯を取り上げる。

そのころ、件の縁側の唐櫃は、丁寧に、老臣等の手に依って、浪路の居間へと担つぎ込まれた。

浪路には、兄に当る、当主駿河守の許へも急使が飛ぶ。腹心の老女どもが、三斎から耳うちをされて、顔いろを失しながらも、錦繍のしとねを、いそいで延べて、驚愕と恐怖とに、ブルブルと震えながら、美しく若い女あるじの死体を窮屈な函から出して、そのしとねに横たえるのであった。