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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二

――だからよ、やもめ暮しはやり切れねえってことよ。もう一升のみてえと思っても酒屋まで、ひとッぱしり行って来る奴もいねえとは何て不自由なこッたろう。三宅島にいたころのことを思や、これでも極楽、下らねえ欲をかいて、変なことから、身性が曝れでもすると、とんだことだと思って、つつしんではいるものの、精進ぐらしも、これで三年、てえげえ、辛抱が出来なくなるよ。

ごくりとまた、一口、飲んだとき、床下の方で、かすかに、女の咳ばらいのような気配が聴える。

――おや――

と、聴き耳を立てて、法印、口に出して、独りごと――

――あの、軽業お初女郎、勝気な奴だが、さすがに、ろくろく寝つけねえと見えるなあ――だが、俺も、この庵室ずまいをしはじめてから、かどわかされの女の子を預かる内職をはじめて、かなりああいう代物を手がけたが、あいつのように根性骨の突っ張った奴は、逢ったことがねえぜ。闇の兄貴の罠に落ちて、この古寺にかつぎ込まれたときにも、どうせ逃げられねえ立ち場だと知るてえと、闇の親分でも、女のあたしを相手に、こんな卑怯なことをするのかえ――と、ひと言、言っただけで、じたばたさわぎをするのは愚か、溜息ひとつ洩らしもしやがらなかった。