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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二二
「悪党?」
「わるかったかね?」
と、婆は、ますます、薄気味わるく笑って、
「なあ、いろいろ相談がある――すわっておくんなさいよ。ねえ、法印さん――あたしだって、こんなときには、なかなかいい智恵が出るのだよ」
二二
「お酒を、やめておしまいになったというなら、法印さん――何か甘いもので、お茶でもいれましょうね――まあ、お坐んなさいったらさ」
婆さんは、くりかえした。
「うむ、だが、あの娘御を、あのまま、ころがして置いたのでは――」
と、島抜け法印、ぐったりと、のれん口にうつぶしのままに仆れている、砕かれた花のような浪路の方をかえりみた。
「いいえ、大丈夫でございますよ、この婆あが、おあずかりした以上はね――」
と、お三は、また、疎らな歯を剥き出して、ニタリとしたが、手早く、火鉢の熾火をかき立てて、
「さあ、お湯も沸ちますから、坐っておくんなさいよ――御相談があるんだからさ」
坊主は、坐った。
お三婆は、ぐっと、顔を突き出すようにして、
「ねえ、法印さん、この婆さんを、忘れちゃあいけませんよ――なるほど、あの雲助たちが、かつぎ込んで来て、おッぱらわれたには、相違ないが、この宿の家の中での出来ごとなのだからね――それだけは、忘れずにおくんなさいよ」