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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

五

そなたに今宵、白紙の一軸を贈ろうとしたのも、今度こそ、大事を思い立っていると、見極めた程に、改めて、わしの日頃の、魂そのものを、伝えようとしたまでだ。何も、平馬を追うには及ばぬ。彼はただ、師を失い、友を失って、全く空なるものを掴んだだけじゃ」

雪之丞は、ひれ伏したままで、深い感動に満たされた。

「さあ、会得したら、彼方の室にて、そなた持参の銘酒の酒盃を上げよう。まいれ」

師弟は、神前に額ずいて、道場を去った。

五

一松斎も雪之丞も酒盃を傾け始めると、もう今までの道場での事件などには、何も触れなかった。言わば、浮世話と言ったような、極めて暢びやかな会話が、続くだけだった。朗かな談笑の笑声さえ漏れていた。酒だけが楽しみのような一松斎の頬に、赤い血の色が、ぼうっと上る頃、雪之丞は、暇を告げようとした。

「ゆっくりお相手をいたしたいのでござりますが、宿元に戻りましてから、狂言の打ち合せもござりますので、これでお暇が願いとう――その中に、必ずまた、御機嫌伺いにまいりまする」

「さようか。――わしも、近々、必ず、そなたの舞台を拝見に、まいろう」

と、いつくしみの目を向けた一松斎は、ふと、思い出したという風で、極めて何気なく、