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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

四

「いや、待ち兼ねました。太夫もさき程から来ていられましてな――あ、これが、初下りの雪之丞、こちらが、お噂した広海屋の御主人じゃ。このお方も、そなたの舞台をつい、昨日のぞかれて、いやもう、大そう讃めておられましたぞ」

雪之丞、広海屋を一目見て、その福々しさがのろわしい。貧しく乏しい裏長屋に蹴落され、狂い死に、この世を呪って死んだ、父親の、あの窶れ削けたすがたが、今更のように思い合わされる。

――おのれ、見ておれ、間もなく、おのれも八寒地獄に落ちる身だぞ。

憎みを、満腔に忍んで、彼はやがて仇敵どもがすすめる杯を、今夜も重ねねばならぬのだった。

四

「ところで、長崎屋さん」

と、富裕な大商人は、仲間の方を向いていいだした。

「今夜、松枝町のお屋敷から、ちょいと御用で呼ばれたで伺いますと、思いも寄らぬ話がござりましたぞ」

「思いも寄らぬ話とは?」

と、長崎屋は、広海屋の赭ら顔を見返した。

松枝町といえば、三斎屋敷を意味するので、この連中に取っては重大な関係がいつもあるのだ。三斎一家に関する情報は、従って聴きのがすことが出来ない――長崎屋の顔さえ、ぐっと、向きかわる。