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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
八
この女にこんなことを言っていて、よくも、口が竪に裂けずにいるものじゃ。
けれども、彼は、もっともっと言うであろう――
「お覚悟とは?」
「もしも、お上の側にいるのが悪いというなら、いつでもわたしは、御殿を出ます――はなれます。それで、そなたが、ようしたと、讃めてくれるなら――」
雪之丞に唆られて、浪路は、どこまでも言い証したい。
雪之丞は、更に迫り言い寄らねばならぬ。
「ま、お口の美しさ!」
「口! 口と、そなたはお言いやるな――よくも、まあ!」
と、浪路は、紅い下唇を、白い白い、真珠を並べたような歯で、血の出るまでに噛みしめるようにしながら、
「それなら、わたしは、もう、御殿へは、二度と上らぬ」
「滅相な」
と、雪之丞は叫んだ。
「そのようなことを!」
彼は、引きしめられた両手を、しめ返した。
八
――この娘が、今後、どこまでも、公方を嫌い通し、大奥づとめを拒ぞけて、二度と城内にはいろうとしなかったら、三斎父子の驚きと狼狽とは、どのようなものであろう――それこそどうしても、一度は見てやらねばならぬものだ。この娘には、気の毒だが、わしはこころを鬼にせねば――
雪之丞は、浪路が、みだりがわしく、しなだれかかるに任せた。