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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一一

お初の目が、これも、お高祖の隙で笑った。

「その言葉のままなのさ。壁に耳があることゆえ、うっかり胸の中は、しゃべれないと言ったまで――」

雪之丞は、お初に寄り添うように近づいて、

「もう少し濁さず言うて貰いたい」

一一

雪之丞、今は思い切って、ずっと、お初に寄り添うと、ぐっと、和らかい二の腕を掴むようにした。

「ねえ、何もかも、ハッキリいって貰いたいのだが――」

お初は、腕に、指をまわさせたまま、振りほどこうともせず、あべこべに、凭れかかるようにして、

「おや、また、腕立てかえ?」

彼女は、三斎屋敷での、一条を、思い出したに相違なかった。

「腕立てというわけではないけれど」

と、雪之丞は、低い、強い調子で、

「万一、このわたしに、そなたの言うとおりの大望というものがあったとする――いい加減なことを小耳にはさんで、兎やこう噂を立てられたら、その迷惑はどんなだと思います」

「だからさ、わからないお人だねえ」

と、お初は、一そう、男の胸に、全身を押しつけるようにして、

「あたしは何度も言ってるだろう? あたしの気持さえ察してくれたら、たとえばお前が、人殺し、兇状持ちの人にしろ、決して歯から外へ、出すことじゃあないと。