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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一七

その刹那、かあーと、全身の血が逆流するのを覚えるのだった。

――さては、ひとを河原者、色子あがり同然とあなどって、婦女子の、弄びもの、つれづれの伽として、淫らなことを、させようとしむけるのだな。しかも、相手は恨み重なる土部三斎の娘――

と、顔色さえ変えて、すぐに、はげしい言葉を酬いようとしたのであったが、

――いや、いや、ここが堪忍のしどころ、胸の、さすりどころじゃ。今夜は、どのような仕儀に臨んでも、怺えに怺え、ただ敵方の懐に喰い入り、のちのちの準備に備えようというのが、覚悟なのだ――

と、自分を叱ったものの、しかし、三郎兵衛の求めには、どうしても、応じられない気がした。

彼は、顔に、慇懃な笑みを作って、

「それは、有がたいお言葉ではござりますが、わたくしは、女形、たださえ世上の口がうるそうござります。御女性がたばかりの御席へは、かねがねから、お招きをお断わりして居りますので、何分ともに、御前態よろしゅうお詫びを申し上げておいて下さりませ」

三郎兵衛は、うなずいて、

「なる程、そなたの申し分には、道理がある。そこまで、身を慎んでこそ、日本一の芸人と、名を謳われることも出来よう」