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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

八

「どうにもおれには解せねえんだ。こうして行灯の薄暗い光りで眺めていても、お前のそのうつくしい顔や体に、なんとなく殺気が感じられてならねえ」

闇太郎は長火鉢のふちに、両手をかけるように、強い眼で、艶麗な女形の顔を真すぐに見据えるのだった。

八

闇太郎から、自分の体に殺気が感じられると、だしぬけに言われた雪之丞、眼を反らして、にわかに笑いにまぎらした。

「それははじめてうかがいます。かえって師匠などからは、いかに女形だというて、平常はもっと、てきぱきしなければならぬ。そなたは兎角因循すぎるなどとさえもうされておりますのに――」

闇太郎は、大きくかぶりを振るようにした。

「誰がなんといおうと、おれの目にゃあ、ちゃんと感じられるのだ。実は今日も、中村座へ、おまえの芸を見たさに、そっと覗きにいったが、他人の眼にはいざしらず、舞台の上でさえ、おまえは剣気をはなれられぬ。滝夜叉が、すっかり恋にうちまかされ、相手に取り縋って、うっとりするときでも、どうも今にも懐中から刃ものが飛出しそうで、おれにゃ危なくってならなかった」

雪之丞は、まじまじと、呆れたように対手を見詰めたが、だしぬけに、からからと、ひどく朗らかに笑って見せた。