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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

六

「それほどまでに――なぞ、言われるとは、そなたも、あまりに、女ごころをお知りにならぬ――雪どの、そなたのうつくしい姿に迷うて、身も世も要らぬとまで思い込んだ女子は、かず多くありましょうが、この浪路は、日本六十余州を、おんあずかり申される、将軍家の、限りない御寵愛を、草履のように打ち捨てて、そなた一人と思いかえたのではありませぬか――さらさらそれを誇るではなけれども、今少し、この胸の中を察してたも――」

「冥加とも、かたじけないとも――この雪之丞とても、尽未来、あなたさまのほかに、世上の女性にこころをうごかすようなことはいたしませぬ――」

二人は、抱き合うようにした。美女の、髪の香の、何という悩ましさ!

六

浪路は、雪之丞の胸にすがりつくようにしたまま、昂奮と感動とに、声をわななかせて、誓うように言うのだった。

「雪どの、わたしの言葉が、真実であるか無いか、もうじきに、そなたは思いあたりなされますぞえ――この生家に、いつまでも日を消していたなれば、御殿から、かえれ、もどれと、申して来るは知れたこと――現に今日も、重役の老女が見舞に見えられて、今は窶れ哀えも見えずなったゆえ、一日も早う、大奥へ上るように――と、くりかえしていってでありました。