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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
九
ガラガラと、引き戸になっている、陥穽への入口が、あいたらしく、やがて、顧みられぬ女のやけ腹な、おこりッぽい調子で、
「さあ、下りなと言ったら、下りないか! 愚図々々していると、お初ちゃん、気が短いよ、上方ものとは違うんだ。どてっぱらへ、ドーンと一発ぶち込むよ――ふ、ふ、一度惚れた女だなんぞと思って、甘ったれッこなしにしてさ――下りなよ、雪之丞――」
雪之丞は、何と観念したか――手向いは、大けがの元と、胸をさすったのであろう――梯子か、それとも綱か、それをつたわって、地下室へ下りて行った容子――
「大人しくしているんだよ、御府内御朱引の中とはちがうんだよ――じたばたすると、火をかけて遠慮なく、古寺ぐるみ、焼き殺すから――」
と、おどして置いて、ガラガラピシャリと、下り口の戸を閉めると、ガチャガチャと金物のひびきをさせたのは、錠を下ろしたのであろう――
「ふ、ふ、可愛さあまって、憎さが百倍ッてネ、これで、胸がせいせいした」
と、捨鉢につぶやいたお初、門倉たちがいる方へ、出て行ったが、相変らずのキンキンした調子で、
「さあ、これから、勝祝いに酒盛りと出かけますかね――皆さん、ごくろうさま――でも、あんまり、手もなくたおされてしまったので、見物の仕甲斐がありませんでしたよ。