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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一三
平馬が、
「悪魔メ!」
と、股立ちを取って、刀を掴んだまま、庭上に飛び下りようとしたとき、
「門倉さん、お前さんまで、ぶッたおされるにも及びますまいよ」
破れ障子の蔭から、そう、艶妓っぽい声をかけて、赤茶けた灯影が照す縁側に、すらりとした立姿を現した女があった。
一三
五人の友輩、幾人かの弟子どもを、刀を抜かず打ち倒した雪之丞の、あまりに昂然たる意気に、気圧されはしたが、退きもならず、勇気を振い起し、髪の毛を逆立てて、庭上に刎ね下りようとした平馬を艶っぽく押し止めて、縁側に、スラリとした姿を現した一人の女性――
その姿を仰いだとき、さすがの雪之丞の紅唇から、
――アッ!
と、驚きの声がほとばしろうとした。
洗い髪にして、縞物の裾を長目に、素足を見せて、黒繻子の帯を引ッかけ結びにした、横櫛の女、いうまでもなく、軽業お初だ。
闇太郎の手で、殺しこそはせぬが、谷中の鉄心庵という古寺に、慥かに身の自由を失わせて、監禁しているという、そのお初が、何ごとぞ、今、雪之丞の前に、而も、門倉平馬の一味女頭目らしく、悠然として出現したのである。
瞠目した雪之丞を、お初、ふところ手で、柱に凭れかかるようにしたまま、冷たく笑って眺め下ろした。