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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一〇
彼は、ぐったりとした赤んぼをふところに、抱き締めるようにして、わが体熱に温めながら濠端添いに、一切の騒擾からとおいところまで逃れて来て、さて、捨石の上に腰を下ろした。
ふところの赤児は、ますます、冷え切ッてゆく。が、どこにか、いのちの種の火は、辛うじて、残っているのが、感じられはするのだ。
膝に載せて、星あかりに、じっとみつめると、この愛らしい、ふっくらと肥えた嬰児のいずくに、親どもの、あの剛腹な、ふてぶてしいものが見出せるであろう!
武術の活――それを、そのままソッと、指さきが、絶気している子どもの、鳩尾に当てられる。かすかに、その先きに力がはいると、ピリピリと、小さい、和らかいからだが、神経的にうごめいた。
そして、しばしばと、まぶたがうごいて、
「――ぎゃあ、ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!」
と、息を吹っかえすと、すぐにもう、むずかり泣きだ。
「誰がよ誰がよ」
雪之丞は、あやして見た。ぎゃあぎゃあと、反りかえるのを、思わず、ソッと頬ずりしてやったが、この刹那、彼の内心に、激しい争闘が行われているのは、美しい眉目の歪みでも知れるのだった。
――どのように、愛しげに見えても、かたきの片割れだ!