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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二〇
むく犬は、親分のお初が、あんまり綺麗なので、色気にひかされて、かくれ家にゴロついているなどと思われるのが恥かしいのだ。
その上、お初の、負けじ魂で、ともすれば男の闇太郎に張り合って、悪口の一つもきくのが、ひびいていやしまいかと、気にもなる。
が、闇太郎、むく犬なぞは眼中にない。
「かまわずに油を売っていてくれ。おらあ、姐御に、ひと言、話があって来ただけだから――」
二〇
「大丈夫なのかえ? 吉さん、こんな人を通してさ?」
と、心配そうな婆やを、台どころへ出て来たむく犬の吉は、目つきでおさえて、
「どうしてどうして、そんなお人じゃあねえんだよ――あれで、あのお人は、江戸で名うての人間で、名前を聴きゃあ、小母さんなんざあ、腰を抜かしてしまうのさ――それよりも、何か、有り合せのもので、親分に一口差し上げなけりゃ――」
狭いうちなので、その話ごえは、茶の間に筒抜けだ。苦わらいした闇太郎が、
「おい、吉、構ってくれるにゃ及ばねえ、姐御の留守に、そんなことをして貰っちゃあ――それより、もう一ぺえ、茶が頂戴してえな。おめえ、煎茶の心得でもあると見えて、豪勢、うめえ茶をのませてくれたよ」