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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二五

その前に手をついて、ぬけぬけと、一身一命、御自由でござります――などと、並べ立てている奴の、奴根性は、ちょいと、この世で、二人とは見つかるめえ。いつか、白んで来たようだ。そろそろこの薄汚ねえ場所を亡けるとしようか――

「大分頂き過ぎやした。これで御納杯と――」

闇太郎は、口では丁寧にいって、酒盃を隠居の方へさし出すのだった。

二五

三斎隠居も、もう闇太郎を、強いて引き止めようとはしなかった。

「さようか、――もう世間が白んで見れば貴様を狙う、鵜の目鷹の目は、却って、視力を失う頃だ。だがそれにしても、あまり危ないことは、せぬがよいぞ」

と、言って、振り袖小姓に、手箱を持って来させると、二十五両包を、一つ、ずしりと膝近く投げてやった。

が、闇太郎は、押し返した。

「あっしあ、この方とは、少し渡世が違うんで――御大家に伺って、こんなものを頂く気なら、何も好んで、夜、夜中、塀を乗り越えたり、戸を外したりして、危い仕事はしてはいません。まあ、お預かりになって、置いて下せえ。その中に、頂戴したくなったら、御存じのねえ中に、そっと頂いてめえりやすから――その方が御隠居さんにとっても、面白かろうと思うんで――」