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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
九
に存じますで、はねましてからどこぞで、お杯を取らせつかわしたらと考えますが――」
「それそれ。拙者もそのことを、思わぬではなかったが――」
と、横山は、うなずいて、
「御隠居の御都合さえよろしければ、そういたしておつかわしになったら、ことさら上方からの、いわば頼りすくない彼、なんぼうかよろこぶでござろうが――」
この問答は、三郎兵衛によって、とりわけ浪路に、聴えよがしにはじめられたのだ。
彼の視線は、冷たく、鋭く、彼女にちらちらと投げつづけられる。
――それ、見るがいい。あの娘、まるで相好がかわってしまった。屈託らしい顔が、急に生き生きとかがやき出した。ふ、ふ、この三郎兵衛さまの眼光におそれ入ったか?
勿論、三郎兵衛のこの発議を、しりぞける三斎ではない。彼は異った世界の人間に接触するのが、一ばんのたのしみでもあった。
「おもしろいな。どこぞで、招いてやろうよ。浪路、そちにもいい保養であろう」
彼はのんびりした調子でいった。
九
父親から、雪之丞を、どこぞ会席にでも招いて、贔屓の言葉をかけてやろうではないか――と言いかけられて、浪路は、ときめく胸を隠すことが困難なように見えた。