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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一三
一三
商利を、一生の目的とし、そのためには、一切の恩愛義理をも犠牲にしようとするような人間に対しては、利害一途で、相い争わせ、相い喰ませ、骨髄まで傷つけ合せるのこそ、最大苦痛をあたえることだと、孤軒老師の訓しえからして思い到った雪之丞、広海屋の顔いろが、すさまじく変って来るのを見きわめると、一そう煽りを掛けてやらずにはいられない気がして来た。
「わたくしどもには解りませぬが、芸道の方なぞでは、どのように日頃親しくしていましても、舞台の上で蹴落し合わずにはおりませぬが、お話をうかがっておりますと、さすが、あなたさま方は、お立派なものでござりますな。長崎屋さまに御不便だとお思いあそばしますと、あなたさま、見す見す莫大な御利分があると御存じでありながら、お手をおゆるめになるとは、全く以って、恐れ入る外はござりませぬ」
すると、広海屋が、組んでいた腕を、ぎゅっと引きしめるようにしながら、じろりと、雪之丞を見て、
「太夫、そなたは、長崎屋にも、贔屓にされている身、だが、そこまで申してくれる故、打ちあけるが、商人道というものも、そなたが、今、言われる通り、どんな恩人、友達の仲でも、いざという場合は、武士の戦場、かけ引きがのうては叶わぬ。