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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一二
それを読むと足を空にかけ出して来たんですが――」
一二
二度三度、顔を合せているがに股の吉、相当、目はしの鋭い男だが、闇太郎の、ひょいとしたいきでガラリ調子を変えて見せる、不可思議な技術と、擬声の巧みさとに、すっかり相手を見そくなってしまった。
もっとも、それを、責めるわけにはいかないのだ――闇太郎の、この種の技巧は、江戸切ッての目明し、岡ッ引の、心眼をさえ、何度、くらまして来ているか、わからないのだから――
「そんなわけで、黒門町の姐御に、是非とも、一刻も早くこのことをお耳に入れなけりゃあ、お杉さんにあッしが済まねえ――吉ッつぁん、姐御、この寺にいるなら、早速知らせて上げておくんなせえ」
「いうにゃ及ぶだ――お杉さんはまさか口は割るめえが、浪人衆の方の門人か何かが、行く先を知っていて、しゃべってしまえばそれッきりだ」
と、前庭を、書院座敷の方へ駆け出す吉のあとから、闇太郎は、ぬからず跟いて行った。
「姐御! 酒盛なんぞ、暢気らしくやッている場合じゃあありませんぜ!」
吉が、庭先から叫ぶと、
「何だい! 仰山らしい! 何がどうしたって言うんだい!」
と、きめつけるような、お初の声。