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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二

と、いった工合で、雪之丞、人気を振り捨て兼ねて、却って迷惑げに見えたが、しかし、師弟とも、肚では、

――大敵多勢を持つ身に、用意の月日をあたえて下さること、一に神仏の御利益――

と、涙が出るほどうれしいのだ。

二

雪之丞畢生の大願は、これまでの経過から言えば、徐々に確実に運んでゆけば、必ず十分な成果を挙げることが出来ると信じられるのだった。

もはや、土部三斎に対する、第一段の復讐工作は、完了したと言ってもいいではないか?

公方の寵愛をほしいままにして父兄栄達の原動力をなしていると言われる、浪路の存在は、大奥から消えてしまった。そして、浪路が、公方の熱愛を振り捨てて、姿を隠してしまったとなれば、三斎一家に対する柳営の気持が、どんなに変って来るかは、言うまでもないことである。

世の中の辛酸も、道理も理解することの出来ぬ、公方というような、最大特権階級の我儘者の、愛憎が、どのように変化の甚だしいものであるかは説明を待たない。

この不幸をきっかけにして、土部三斎や、横山、浜川と言ったような、奸佞暴慾な武士たちは、だんだんに、雪之丞の計略の罠に陥ちてゆくであろう。