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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

四

「へええ――」

と、闇太郎は、笑いそうになったが、急に何を思い当ったのか、六かしげに眉を寄せて、

「して、その娘は、どこにいるんだ」

「あすこの横町にかごを置いて、おれが方々、宿屋を叩いているわけさ」

「どれ、一目、その娘をのぞいてやろう」

「親分がか?」

「うむ、まん更心当りがねえでもねえのよ。まあ、逢って見ねえことにゃあ――」

闇太郎は、三斎隠居のまなむすめ、大奥で飛ぶ鳥を落すといわれた浪路が、すがたをかくしてしまったことを知っている――その失踪の原因についても、雪之丞から打ち明けられている。

彼としては、恋に狂い、恋に生き、恋に死のうとして、一身を牲にしてはばからぬ、その浪路という娘の、激しい執着の心根を、あわれなものに思わぬことはなかったのだ。

同時に、どこまでも雪之丞が、彼女の愛を、払いのけて行かねばならぬ、胸の中をも察して、思いやりの腕組を、何度したかわからぬのだった。

――若し、法印が、救った、高慢な口を利くむすめが、浪路とやらであったなら!

その時には、どうしたものか、まだ、咄嗟の場合、闇太郎にも決心はついていない。しかし、このまま知らぬかおで、突ッぱなすこともならない気がした。