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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

九

この浪人を怨むなら、彼奴らを怨み抜け――

浪人者も、騎虎の勢い――止め手がないので、

「うう、おのれ――」

と、叫ぶと、とうとう、腰を捻ってギラリと抜いた。

九

浪人が抜いたと見ると、雪之丞は大地に片手の指先を突いたまま、片手で、うしろに踞ってわなないている供の男を、庇うようにしながら、額越しに上目を使って、気配を窺った。

雪之丞の、そうした容態は、相も変らず、淑やかに、優しかったが、しかし、不思議に、五分の油断も隙もない気合が漲って、どんな太刀をも、寄せつけなかった。

浪人は、まるで電気にでも触れたように、パッと飛び退って、驚愕の目を見はった。

彼は、白刃を振りかぶったままで、

「ううむ――」

と、呻いた。

勿論、この浪人、雪之丞を、真二つにする覚悟があって抜いたわけではない。が、相手の身体から迸る、奇怪な、霊気のようなものを感じると、顔色が変った。

――こりゃ、妙だ。この剣気はどうだ? が、この河原者、兵法に達しているわけはない。

彼は、そう心にいって、乗りかかった船、思いきって斬り下げようとしたが、駄目だった。振り下ろす刃は、ピーンと、弾き返されるような気がした。