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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一六

その、嘲罵に、唆り立てられたのでもあるまいが、その刹那、平馬の振りかざしている烈剣が、闇の中で、キラリと一閃したと思うと、二闘士のからだがからみ合って、大刀と、短剣とが、火花を散らした。そして、次の瞬間には、二人の中のいずれかのからだが、ぐたりと、地面に崩れるのを見た。

「ほ! やりやがった」

お初は、そう叫ぶと、またしても、早い逃げ足だ。

平馬を、水月に一本入れて、その場に絶気させた雪之丞が、稲塚の方へ突進して行ったときには、もう三町も先きを、黒い影が、風のように、煙のように駆け去っているのだった。

一六

夜の禽のように、闇に溶けゆく女の影を追うて、雪之丞は、ひた走りに走る。

が、彼は、土地も不案内、まがりくねった路――息を切らして、駆けつづけたが、いつか、大川の河岸に出たときには、もういずれにも、それらしい姿をみとめることも出来ない。

雪之丞は漫々たる、黒い流れを見下ろして当惑するばかりだ。

――しまったことをした! しまったことをした! 千丈の堤も、蟻の一穴――あのいやしい女白浪の、恋にやぶれた、口惜しまぎれの口から、大事が敵に洩れたら、それまでだ! どうしよう? どうしよう?