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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一四

「太夫、そなたの舞台の芸は芸として、お歴々様に、日頃のたしなみを、何かお目にかけたらよかろうが――」

雪之丞は、とりわけ、この三郎兵衛から、ものをいいかけられると、憤りに全身が、こわばって来るのだった。しかし、彼は殊更、しおらしく頭を下げた。

「未熟者で、何も覚えて居りませぬが、折角のお言葉ゆえ――」

と、そう答えて、一人の芸者から、三味線を借りると、かすめた調子で、爪弾きで、低く粋な加賀節を歌いだした。

つとめものうき

ひとすじならば

とくも消えなん

露の身の

日かげしのぶの

夜な夜なひとに

遇うをつとめの

いのちかや

紅い唇が、静かに動くのを、吸いつけられたように、浪路は、見つめて、手にしていた金扇を思わず、畳にとり落すのだった。

一四

々、切々たる、哀調は、かすかに弾きすまされた爪びきの絃の音にからみ合いながら、人々の心を、はかない、やる瀬ない境に引き込んでゆくのであった。

芸者たちは、雪之丞がうたいおわって、頭を下げ、三味線をさし措いたとき、深い吐息をついた。

「加賀ぶしも、ああうたわれると胸を刺されるようだの」

と、通人の三斎がつぶやいた。

それは一座の気持を、代っていいあらわしたものといってもよかった。