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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一〇
一〇
座敷の方で、酒宴のにぎわいが陽気らしくはじまったころ、闇太郎は、いつか、荒れ障子を開けてもう、真暗な、本堂の中にはいっていた。
だが、夜と、暗がりが世界のような彼、足元にも、手元にも、迷うことではない。まるで、明るみの中を歩くように、雑多にころがっている、仏具や、金仏の間を、巧みに趾先さぐりに通り抜けて、近づいたのが、須弥壇の前――抹香臭さ、かび臭さが鼻を撲つ。
おぼろかな気配のうちに、さすがに荘厳味を感じさせて、高く立っている如来像には見向きもせず、壇下を、手さぐりで、一探り、早くも、台の前かざりの、浮き彫りの、篏め込みの板を、触れて見て、彼は、それが、引戸になっているのを悟った。
――ははあ、これだな、お初の奴が、ガラガラと開けたのは――つまり、ここから壇の下に潜ると、陥穽になるわけなのだ。
お初は、遠慮する必要がないから、出入の秘し戸を、思い切って開けることが出来たのだが、こちらはそうはいかない――闇太郎は、油断のある男ではない上に、今夜は、つい鼻のさきに、目も耳もはしっこい、敵を控えている身だった。
大事を取って、息をととのえて、指先を、秘し戸にかけると、いつか錠がはずれて、スッ、スッと、小刻みに開いてゆく。