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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
五
「わかっている――貴公のいうことはわかっている」
と、以前に長崎代官をつとめて、これも暴富を積み、お役御免を願って、閑職につき、裕福に暮している旗本、三郎兵衛の前に、立ちふさがって、
「だが、商人の戦いは、そう荒立ってもどうもならぬ――口惜しかったら、やはり、商いの道で、打ちひしいでやるがいい――ま、下に――」
「何とおっしゃる! 浜川さん! じゃあ、そなたも、あッち側なのだね! 広海屋の仲間になってしまっているのだね!」
と、長崎屋、歯を噛んで、浜川旗本を睨みつめ、
「商人は、商いで戦えと! それを、こうまで、ふみにじられた、わしに言うのか! わしにどこに、商いで戦える力が残っている? 十何年の月日をかけて、一生懸命働いて来た黄金という黄金、江戸に見世を移すに使った上、短い一生、出来得るだけ富をふやそうと、さまざまな方角へ資本を下ろし、その上、今度こそ、最後の決戦と、手を出した米商いに――伸るか反るかの大事な場合と、知り抜いた広海屋にハメられたのだ。うしろから突き落されたので、もはや起き上る力もない――それを知らぬ、あなたか? 浜川さん、あなたにしても、長崎以来、わしのためにも、利を得ていられるお人ではありませぬか――それを、広海屋ばかりを身贔屓して――」