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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「ううむ、――」
と、彼は、また呻いた。
雪之丞は、さもしおらしく、片手を土に突いたままだ。
するとその時、取りまいた群集の中から、
「うむ、面白いな。こいつあ面白いな」
と、言う呑気な声が聞えて、やがて、人山を割って、一人の職人とも、遊び人ともつかないような風体の、縞物の素袷の片褄をぐっと、引き上げて、左手を弥蔵にした、苦みばしった若者が現れた。
「おい、浪人さん――その刀は、どうしたんだ? 赤鰯ではねえということは、御連中さま、もうよく、お目を止められましたぜ。斬るなら斬る、おさめるなら、おさめる――どっちかに片づけたらどうだ?」
その吉原かぶりの若者は、ぞん気にいって、雪之丞をながめて、
「ねえ、役者衆――売り出しの身で、大道に手をついているのは、あんまりいい図じゃねえ。おいらが引き受けたから、さあ早く行くがいいぜ」
その言葉を聴くと雪之丞は、
「御親切はかたじけのうございます」
と、そう言いながら、チラと、若者を仰いで、すらりと身を起した。
「お言葉に従い、ではわたくしは、行かせていただきます。さあ、そなたも」
と、腰が抜けたような、供の男を促して、素早く人混みの中に、くぐり込んだ。